いじめ防止対策推進法第16条(いじめの早期発見のための措置)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(いじめの早期発見のための措置)
第十六条 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、いじめに関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
3 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(次項において「相談体制」という。)を整備するものとする。
4 学校の設置者及びその設置する学校は、相談体制を整備するに当たっては、家庭、地域社会等との連携の下、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利その他の権利利益が擁護されるよう配慮するものとする。
【解説】
□ 定期的な調査等
いじめの未然防止の取り組みが行われても、いじめが全くなくなるものではないという認識から、これを早期に発見し適切に対処しようとするのが本条文の狙いです。
その具体的な手段の1つが、定期的な調査です。
アンケート・質問票を用いたいじめに関する調査は、この法律において何度か出てきます。実際に効果を上げている学校もあります。
一方で、記名によるアンケート調査が年に2回形式的に行われているだけにとどまる学校もあるのが実情です。
記名のアンケートでは、報復等を恐れて、児童が正確な記載を避けてしまうと考えられます。
効果的にアンケート調査を実施するには、当然、無記名の調査を求めることになります。
□ 主体
2項では、国・地方公共団体の責務を、3項では教育委員会付属機関(14条3項)・学校いじめ対策組織(22条)の責務が規定されています。どちらも、いじめに関する相談を受けやすい体制の整備が求められています。
長野県や滋賀県大津市の取り組みがニュースにもなりましたが、LINEを活用した相談体制の整備など、各自治体も新たな取り組みをしています。
□ 相談体制整備に関する配慮
いじめを受けた児童等の権利利益の保護とありますが、想定されている問題は、例えば、
・相談したことによって、かえって、いじめがエスカレートする
・家庭のプライバシーが漏洩する
・目撃した児童等が相談したことによって、新たないじめのターゲットになる
といったものです。
そのため、いじめに関する相談を行ったことが、外形的に分からないようにする空間的配慮などが求められます。
いじめ防止対策推進法第15条(学校におけるいじめの防止)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(学校におけるいじめの防止)
第十五条 学校の設置者及びその設置する学校は、児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない。
2 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを防止するため、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民その他の関係者との連携を図りつつ、いじめの防止に資する活動であって当該学校に在籍する児童等が自主的に行うものに対する支援、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員に対するいじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるものとする。
【解説】
□ いじめの未然防止
いじめは、いじめを受けた児童等の尊厳を害するものです。学校での教育課程の中で期待される、心身の健全な成長・人格形成が、いじめによって阻害されてしまいます。そのことから考えると、いじめは未然に防止することがまず第一となります。
いじめの背景には、
・他者の尊厳を尊重できないこと
・他者の心身の痛みに対する想像力・思いやりの欠如
・コミュニケーション能力の不足
・自分自身の健全な自尊心の発達不足
などがあると考えられています。
それらのいじめの背景となっている問題に対して、学校や教育委員会が主体となって手を打っていくことが本条の狙いです。
□ 具体的取組として想定されるもの
・直筆の手紙を使った、気持ちのやりとりによるコミュニケーション能力の涵養
・ピアサポート(同じような立場にある人によるサポート)
・人権教育
・法教育による規範意識の醸成
・いじめパトロール(児童等の自主的な活動の例)
どのような内容の取組をいじめ防止基本方針に定め、実施していくかは各地域・各学校の創意工夫に期待されています。
また、優れた取組に関しては、地域・学校に横断的に共有されるべきであるとしています。
そのような学校の枠を超えた共有は、国と公共団体の法的責務でもあります(20条)。
具体的に、文部科学省が主催した全国こどもサミットのような取組もあります。
・全国いじめ問題こどもサミット(H28)
千葉県行政書士会では、小学校において、いじめは人権侵害というテーマで法教育が実施されています。
・日本行政書士会連合会による紹介
・日本行政書士会連合会による視察レポート
http://www.chiba-gyosei.or.jp/files-usr/file_53030a9909753.pdf
いじめ防止対策推進法第14条(いじめ問題対策連絡協議会)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(いじめ問題対策連絡協議会)
第十四条 地方公共団体は、いじめの防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、条例の定めるところにより、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他の関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。
2 都道府県は、前項のいじめ問題対策連絡協議会を置いた場合には、当該いじめ問題対策連絡協議会におけるいじめの防止等に関係する機関及び団体の連携が当該都道府県の区域内の市町村が設置する学校におけるいじめの防止等に活用されるよう、当該いじめ問題対策連絡協議会と当該市町村の教育委員会との連携を図るために必要な措置を講ずるものとする。
3 前二項の規定を踏まえ、教育委員会といじめ問題対策連絡協議会との円滑な連携の下に、地方いじめ防止基本方針に基づく地域におけるいじめの防止等のための対策を実効的に行うようにするため必要があるときは、教育委員会に附属機関として必要な組織を置くことができるものとする。
【解説】
□ いじめ問題対策連絡協議会
いじめ防止等の対策を推進する上で、学校・教育委員会に加えて、関係する機関や団体と連携することが必要であるとの認識から、地方公共団体が学校・教育委員会・児童相談所・弁護士・警察関係者・カウンセラーなどから構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができると規定されています。
□ 具体例
滋賀県では、いじめ問題対策連絡協議会についてインターネット上で公開されています。
名簿には、知事や総務部長、教育委員長、県警生活安全部長といった行政関係者、児童相談所所長、学校長、社会福祉士、臨床心理士、弁護士、医師、大学教授、NPO理事など様々な方が名を連ねています。
・名簿
http://www.pref.shiga.lg.jp/edu/gakko/seitosidou/ma05/ijime/files/h29meibo.pdf
毎年度、2回程度の会議が開かれており、その傍聴も可能です。議事録はインターネット上にあがっています。
・議事録(H29年度第2回)
http://www.pref.shiga.lg.jp/edu/gakko/seitosidou/ma05/ijime/files/h29gijigaiyou2.pdf
引用元
滋賀県いじめ問題対策連絡協議会
□ 3項の組織(いじめ対策付属機関)の趣旨
①学校だけでなく、教育委員会自体にもいじめの未然防止、早期発見、事案対処の機能を保持すること
②専門家との連携の仕組みを設けること
③教育委員会にいじめ隠蔽等の不適切な対応があった経緯から、その問題を解決すること
□ いじめ対策付属機関設置の根拠
地方自治法では、教育委員会に付属機関を設置するためには、法律又はの条例の根拠が必要とされていますが、いじめ防止対策推進法がまさにこの法律の根拠にあたります。従って、地方自治体は条例を定めずとも、いじめ対策付属機関を設置できます。
また、同じく地方自治法では、付属機関の職務内容は法律若しくはこれに基づく政令又は条例の定めが必要とされていますが、こちらも法律の根拠がありますので、その趣旨の範囲で、職務事項を、教育委員会規則によって定めることができます。
□ いじめ対策付属機関の役割
国の基本方針において、具体的に示されています。
➣ 教育委員会の諮問に応じ,地方いじめ防止基本方針に基づくいじめの防止等のための調査研究等,有効な対策を検討するため専門的知見からの審議を行う。
➣ 当該地方公共団体が設置する公立学校におけるいじめに関する通報や相談を受け,第三者機関として当事者間の関係を調整するなどして問題の解決を図る。
➣ 当該地方公共団体が設置する公立学校におけるいじめの事案について,設置者である地方公共団体の教育委員会が,設置する学校からいじめの報告を受け,法第24条14に基づき自ら調査を行う必要がある場合に当該組織を活用する。
学校からの報告若しくはその他の通報により、教育委員会が主体となっていじめに関する調査・学校への指導、助言などを行う際には、このいじめ対策付属機関が活用されることになります。
□ 常設の機関として必置か
国の基本方針にもあるように、重大事態が起きてから急遽附属機関を立ち上げることは困難です。従って、平時から「附属機関」を設置しておくことが望ましいとされています。
ただし、小規模の自治体など,設置が困難な地域も想定されます。そこで、都道府県教育委員会において,これらの地域を支援するため,職能団体や大学,学会等の協力を得られる体制を平素から整えておくことなどが望まれるとされています。
結論としては、常設の機関としての設置が望ましいということです。
□ 具体例
滋賀県立学校いじめ問題調査委員会
こちらも、インターネット上で名簿や議事録などが公開されています。
過去の委員会ですが、弁護士、精神科医、臨床心理士、社会福祉士、大学教授の方々が委員となっています。
いじめ防止対策推進法第13条(学校いじめ防止基本方針)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(学校いじめ防止基本方針)
第十三条 学校は、いじめ防止基本方針又は地方いじめ防止基本方針を参酌し、その学校の実情に応じ、当該学校におけるいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針を定めるものとする。
【解説】
□ 趣旨
短く、シンプルですが、大変重要な条文です。イギリスなど、諸外国の法制度や日本国内の先進的な自治体の取り組みを参考にし、それを全国の学校へ広げていくことがこの条文の狙いです。
学校いじめ防止基本方針では、
①いじめ防止プログラム
②早期発見及び事案対処のマニュアル
が必ず、定められることになります。
教職員の多忙さは、現在社会問題としてなっています。いじめが日常的に発生し、その対処に追われていては、教職員も一人一人に向き合った真摯な対応ができなくなるおそれがあります。いじめを予防しその深刻化を未然に防ぐことによって、学校現場の教職員の負担を改善することも企図されています。
さらには、いじめの未然防止等の取り組みを、教員・児童が参加し、学校全体で計画的に行うことで、児童等の学習環境の創出にもつながると考えられています。
□ 国の基本方針による具体化
13条の規定は国の基本方針(11条により定められたもの)によって具体化されています。
上記①いじめ防止プログラム②早期発見及び事案対処のマニュアル
については、以下のような規定がなされています。
・いじめの防止の観点から、学校教育活動全体を通じて、いじめの防止に資する多様な取り組みが体系的・計画的に行われるよう、包括的な取組の方針を定めたり、その具体的な指導内容のプログラム化を図ること
・いじめの早期発見・いじめへの対処に関する取組方法等をあらかじめ具体的に定め、これらを徹底するため、「チェックリストを作成・共有して全教職員で実施する」などといったような具体的な取組を盛り込んだり、これらに関する年間を通じた取組計画を定めたりすること
・国の基本方針
□ 学校いじめ防止基本方針の策定手続き
策定の主体は、22条で定められている「学校いじめ防止組織」と想定されています。
そこに、検討の段階から、地域の保護者や児童生徒にも参加をしてもらい策定することが、国の基本方針において記載されています。
□ 公開
国の基本方針において以下のことが求められています。
・学校いじめ防止基本方針が、ホームページなどで公開されること
・地方公共団体が、その設置した学校のいじめ防止基本方針について、策定状況を確認・公表すること
・学校いじめ防止組織(22条)について、インターネット等で公開されること
従って、基本的には自分の子どもが通っている学校について、ホームページ等をチェックすることで、基本方針と組織体制を確認することができます。
いじめ防止対策推進法第12条(地方いじめ防止基本方針)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(地方いじめ防止基本方針)
第十二条 地方公共団体は、いじめ防止基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体におけるいじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「地方いじめ防止基本方針」という。)を定めるよう努めるものとする。
【解説】
□ 位置づけ
地方いじめ防止基本方針は、国のいじめ防止基本方針と学校いじめ防止基本方針(13条)の間をつなぐものです。13条に規定されている学校いじめ防止基本方針は、この法律の核の1つですが、その策定のベースがこの地方いじめ防止基本方針で固められているということになります。
つまり、学校ごとにあまりにもレベルの差のある基本方針が策定されてしまうことのないように、この地方いじめ防止基本方針がその質を担保するのです。
□ 具体例
・大津市いじめ防止基本方針
・大阪市いじめ防止基本方針
いじめ防止対策推進法第11条(いじめ防止基本方針)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(いじめ防止基本方針)
第十一条 文部科学大臣は、関係行政機関の長と連携協力して、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「いじめ防止基本方針」という。)を定めるものとする。
2 いじめ防止基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 いじめの防止等のための対策の基本的な方向に関する事項
二 いじめの防止等のための対策の内容に関する事項
三 その他いじめの防止等のための対策に関する重要事項
【解説】
□ 国の責任
教育基本法第16条2項には、「国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。」と規定されています。いじめ防止対策は、生徒指導などの教育の一環ですので、いじめ防止対策にも当然国が責任を持って取り組まなければなりません。
□ 国の基本方針
国のいじめ防止基本方針では、大きく3つのことが定められています。
①基本的な方向
②対策の内容
③その他重要事項
その中でも、いじめ防止対策推進法の、学校いじめ防止組織(22条)や教育委員会付属組織(14条3項)が具体化され、詳細な記載がなされたことは、いじめ対策としては大きな変化です。
ごく一部ですが引用して紹介します。
学校いじめ防止組織(22条)の役割
【早期発見・事案対処】
✧ いじめの早期発見のため,いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割
✧ いじめの早期発見・事案対処のため,いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録,共有を行う役割
✧ いじめに係る情報(いじめが疑われる情報や児童生徒間の人間関係に関する悩みを含む。)があった時には緊急会議を開催するなど,情報の迅速な共有,及び関係児童生徒に対するアンケート調査,聴き取り調査等により事実関係の把握といじめであるか否かの判断を行う役割
✧ いじめの被害児童生徒に対する支援・加害児童生徒に対する指導の体制・対応方針の決定と保護者との連携といった対応を組織的に実施する役割
もっとも、方針は制定されて終わりではありません。
1つには、見直しが必要ということです。
こちらに関しては、
いじめ防止対策推進法に①20条で「検証」という形で、見直しをすることが確認されていること②附則第2条で施行後3年で施行状況等の検討が規定されていることから、
国のいじめ防止基本方針に関しても、3年の経過を目安として見直しを検討するとされています。
そして実際に平成28年に検討がなされています。
・いじめ防止対策推進法の施行状況に関する議論のとりまとめ
もう1つは、方針は実行されなければ意味がないということです。
実行主体は、地方公共団体、学校、先生、その他関係者などが浮かびます。方針にも明記されています。
しかし、最重要実行主体は保護者です。
国の基本方針に定められていることが、教育委員会や学校によって守られていない場合、それを正し、動かすのは保護者です。そしてそれを、知識と行動の面からサポートするのが、郷原行政書士事務所の役割です。
いじめ防止対策推進法第10条(財政上の措置等)
いじめ防止対策推進法解説
【条文】
(財政上の措置等)
第十条 国及び地方公共団体は、いじめの防止等のための対策を推進するために必要な財政上の措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
【解説】
□ 予算として想定されるもの
国及び地方公共団体を名宛人として、財政上の措置が努力義務として課されています。
具体的に想定され得るものは、
・本法に基づく新たな組織づくり
・学校現場における教職員の増員
・スクールカウンセラー等、専門家の確保
・教職員の資質向上のための研修等の経費確保
など、様々な分野、場面に及ぶと考えられます。